「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」(東京都美術館、9/19-12/13)に行ってきました。浮世絵など日本文化に大きく影響されたモネの絵には自然美への憧憬という点において日本人と相通じるものを感じるからだろう、展覧会の終盤ということもあってたくさんの方が行っていました。
今回のモネ展はパリ・マルモッタン・モネ美術館が所蔵するクロード・モネ(1840-1926)が亡くなるまで手元に残した作品、約90点の展覧会。モネ自身が愛し自身の進化を確認したかった絵ともいえる。印象主義の名前の由来となった
≪印象、日の出≫1873年、は
≪ヨーロッパ橋、サン=ラザール駅≫1877年、に入れ替えになっていたが、朝の港、機関車という違いはあるものの時々刻々と変る変化(光の変化、蒸気という見えていたものが一瞬に消えてしまう変化)、その場の空気感を描こうとしていることではまったく同じである。旅先で描いた
≪オランダのチューリップ畑≫1886年、では降り注ぐ光、水の流れ煌めき、チューリップを揺らす風などを感じる。印象派の特徴といわれる色彩分割、分割筆触によって光のゆらぎ、振動を感じるからであろう。モネはジヴェルニーの庭に作った池の睡蓮を200枚以上も描いているが
≪睡蓮≫1903年、では睡蓮というより水面に映る枝垂れ柳(あるいはポプラ)を興味津々に描いている。自然を深く観察しようという姿が感じ取れる。白内障を患っていた晩年の大作
≪睡蓮≫1917-19年、100×300cm、これだけをみると抽象画そのものですが常識や権威に束縛されずに自由に描こうとする精神、迫力が伝わってくる。先日、画家・千住博氏の講演を聴く機会があった。
千住氏は「芸術とは自己表現ではない。どのような世界に生きているのか、そしてどのような世界を指向しているのかの世界表現だ。徹底した観察を通しての普遍性、リアリテイを持ち合せているか、独創的なメッセージが含まれているかによって作品の質が決まる」というようなことを仰っていた。この論に従いモネの絵から伝わってくるたメセージを考えてみると、機械化=近代化への問いかけであり、自然をもっともっと愛せよ、そして一番大切にすべきは平和、自由であると思えた。
参考:
東京都美術館ホームページ
補足:≪印象、日の出、Impressio, Soleil levant≫の風景。フランス、ノルマンディー、セーヌ川河口の町、ル・アーヴルにある現アンドレ・マルロー近代美術館の近くで描かれた。ちなみに≪睡蓮≫の描かれたジヴェルニーは同じくノルマンディーのセーヌ川沿いにある。(『地球の歩き方、フランス』)
補足2:印象派の色彩を考える材料
[歴史]
ロジェ・ド・ピール(1635-1709)『絵画の諸原理』:素描に対して色彩を重視。
色彩論争(仏1670年代から1690年初頭:ローマ・フィレンツェの素描派とヴェネツィア・フランドル派の色彩派の論争
物理学者・アイザック・ニュートン(1642-1727)の光のスペクトラム分析:光は7色からなる。
作家・科学者・ゲーテ(1749-1832):『色彩論』、眼がどう認識するかに注目。眼は調和を求めている。三原色と補色。色相環。そのた順応、対比、残像。
物理学者・トマス・ヤング(1773-1829):三原色:赤・青・黄を三原色として発表。一方でヤングは光の干渉現象から光の波動説を唱えたことでも知られる。
化学者・シュヴルール(1786-1889):『色彩の同時的コントラストについて』並置された二つの色彩を同時にみるとき、実際のそれぞれの色彩そのままとは異なってみえる。
物理学者・ヤング・ヘルムホルツ(1821-1894):色覚は赤・青・緑の三色で認識。
色三角形を描いた。三色説は別名、ヤング・ヘルムホルツ説とも呼ばれる。ちなみに古代日本の色を表す言葉は「あか」と「あお」2色であった。あかは本々明るいの意味で、あおは黒と白の中間の色を表す言葉だった。
画家・アルバート・マンセル(1858-1918):色の三属性(色相、明度、彩度)を色立体で表した。
[技術論]
減法混色:色材を混ぜるほど黒くなる。すなわち光の吸収量が大きくなり反射量が減る。
加法混色:光の三原色をあてると白くなる。
並置加法混色、視覚混合:色の三原色の点、或いは細い線をみれば眼が混色し白く明るく認識する。
点描画法、色彩分割、分割筆触:色材は混ぜると暗くなる。混ぜなければ明るく見える。
(典型例)スーラ『グランド・ジャネット島の日曜日の午後』(1884-1886年)
補色:補色の関係にある色材を混ぜると灰色になる。対比させれば鮮やかにみえる。
同化、対比:色彩対比を小さくしての近似調和、大きくしての対比調和。
(典型例)モネ≪印象、日の出≫(1873年)、太陽の光がまだ弱い朝の雰囲気を近似調和で表現。
進出色と後退色:色彩の遠近法
(典型例)ゴッホ『夜のカフェテラス』(1888年)
参考:布施英利『色彩がわかれば絵画がわかる』光文社新書(2013.12)ほか