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現場発の産業論

藤本隆宏『日本のもの造り哲学』日経出版社(2004.6)、藤本隆宏『現場主義の競争戦略』新潮新書(2013.12)を読んだ。近年、わが国の経済成長を支えてきた製造業に元気がない。製造業にはもう期待できないのではないかの悲観論が強い。著者は言う。現場は常に忍耐強く沈黙の臓器のように能力向上を続けている。現場発の産業論が経済界などで取り上げられていないため危うい言説や意思決定(安易な海外移転、事業撤退など)につながっている。本社よ、覚醒せよ!と主張する。筆者の主張の基本は「収益力=競争力」とみる粗雑な見方からは企業の本当の実力はみえてこない。「もの造りの組織能力→裏の競争力→表の競争力→収益力」からなる重層構造から点検しなければならないという。「もの造りの組織能力」とは効率的なオペレーションを安定的に行う能力をいい。日本企業は特にきめ細かい調整を得意としており、著者はそれを「統合型もの造りシステム」と呼ぶ。「もの造りの組織能力」を充分発揮するためには製品アーキテクチャーとの相性が良くなくてはならず、日本企業は「擦り合わせ型」の「クローズド・インテグラル型」の複雑な製品で力を発揮するとしている。「表の競争力」とは売上高、利益率、シェアなど業績数字。「裏の競争力」とは技術力、生産技術力などをいいもの造り組織能力と密接に関係していると思われるがクリアーには書かれていない。
以下、筆者所感。疑問は2つ。著者は表の競争力(業績数値など)だけでは真の企業力を判断できない。本社、経営者は裏の競争力(裏方の力)をしっかり把握し、得意とするところを再確認し、経営戦略を立てるべしと言っているのだと思う。ほんとうにそうだと思うし、そうあって欲しいと思う。①ただもの造りの組織能力、裏の競争力が表の競争力につながる関係がロジカルに説明されていないために(前者は概念、後者は数字)「企業の本当の力は重層構造からみるべし」との立論に弱さがあり、従来からある経営書と際立った違いはない。既存貿易論からみても同じである。②著者はリカードの比較優位論に立つとし、インテグラル型製品に比較優位がある。日本を生産拠点として残すべしとしているが、言わんとするところは分かるものの、これもロジカルではない。比較優位論はある時点でみた製品、生産要素の相対的優位性である。物造りの方法が標準化された広く知られた今日、すり合わせが果たして比較優位と言えるのだろうか。比較優位は時代とともに変わるものであり、高度成長期と事情は違っているはず(アナログからデジタルの時代への変化とも言える)、懐古論ではないか。そうだとしても、①同様、その裏付けとなる比較優位の評価尺度、評価値がないまま議論されており理解するには苦しい。産業内貿易論の差別化論との関係も曖昧である。このように本書を理論として理解しようとするとつまづいてしまうが、理論はさておき「マザー工場は日本に残しなさい」というメッセージははっきり伝わってくる。これもそうあって欲しいが、産業構造の変化(ハードからソフトへ、団結力から有能な人材の構想力)の中でその反対方向に動かざるをえなくなっているのではないか。
参考:2012.4.9ブログ記事(コア・コンピタンス)
by bonjinan | 2014-12-16 18:35 | 企業・起業