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エトス、パトス、ロゴス

パトリック・ハーラン『ツカむ!話術』(角川書店、2014年4月)を読んだ。
「コミュニケーション能力に自信がない」と訴える若者に向けて「ハーバード仕込み」のコミュニケーション技法として解説している。キーワードは、古代ギリシャの哲学者・アリストテレスが『弁論術』の中で述べた「エトス、パトス、ロゴス」を基本に、「コモンプレイス、フレーミング」を加え現代風にアレンジして解説したもの。
グローバルに活躍したいと考える若い人はもとより、魅力ある会話を楽しもうと思っている人、或いは反対に騙されないための知識を得たいと思っている人にとって大いに参考になる。
(使われている用語)
エトス:人格的なものに働きかける説得要素。
パトス:感情(脳科学的には大脳辺縁系)に働きかける説得要素。
ロゴス:頭脳(同、前頭葉部)に働きかける説得要素。著者は論理より言葉の力に重きを置く。
コモンプレイス:共通認識。
フレーミング:話の題材の枠取り。複雑な問題を明快に説明する場合によく採られる。要注意。

(補足)ソクラテス式問答法
アリストテレスの師匠プラトンのそのまた師匠ソクラテスの奨励した教授法。対話を重ね、相手の答えに含まれる矛盾を指摘して相手に無知を自覚(無知の知)させることで真理に導く方法(産婆術)。本書でも触れられているがマイケル・サンデル教授の『ハーバード大学白熱教室』がこれに相当する。教授はロゴスを中心に据えながらも、エトスを軽んぜず、パトスを抑え、生産的議論となるよう誘導している。議論の目的は論破にあるのではなく、参加する者みなが知らなかったことを知り、より高度な結論に到達するため、場合によっては結論に到達しなくてもより高度な議論の出発点とすることにあるからだ。

(補足)ソクラテスの皮肉
自分は知らぬふりをしてソフィスト(古代ギリシャ時代に説得を目的として弁論術を教えていた知識人)に存分にしゃべらせ、彼らの論理の弱点を見つけ、そこを突き、最後に相手を説明不能に追い込んでいった。これをソクラテスの皮肉という。ソクラテスの弟子プラトンが著したソクラテスとソフィストとの議論の中に述べられているもので、ソフィストたちの知ったかぶり、饒舌ぶりをたしなめたもの。しかしレトリックを否定したプラトンが、レトリックにより相手を攻撃する師ソクラテスを痛快に描いているというのも、これまた皮肉である。(金田一真澄『身近なレトリックの世界を探る』慶応大学教養研究センター選書より)
ソクラテスの皮肉的光景は上下関係の中での会話として良くある。上司が上司たるステータスを維持するためだが相手によってはエトス、パトス面でダメージを与えることがある。また同僚同士の会話ではぬけがき屋として嫌われることもある。やはりエトス、パトス、ロゴスはTPOをわきまえて効果的に使うことが肝要だ。

(補足)英語の ethics のこと
倫理、あるいは道徳と訳されるエシックスは、ギリシャ語で慣習を表す「エトス」に語源を持つエシックスの本来の意味は「個人と社会に良い影響を及ぼす行動や理念」である。エトスを戦術用語として理解するのは間違いである。
by bonjinan | 2014-12-05 13:44 | 読書