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貿易収支の推移

2016.5.30 世界的に貿易が停滞
日経新聞(2016.5.30付)によると、世界中で盛んにFTAやEPAが結ばれているにも関わらず世界の貿易量は2015年以降ほぼ横ばいで、世界の経済成長率3%と比べても停滞ぶりが目立つという。その中でも日本の世界貿易に占める比率が10年の6%台から5%に低下しているという。
その理由として記事では①世界中で地産地消が進んでいること、②日本の競争力低下(特に電機)を挙げている。その通りだと思う。
かつてリカードは比較優位論で、お互いに生産性の高いものに特化すれば全体の生産性はあがると言った。しかし現実はどうであろうか。①世界的に生産規模>消費規模、即ち供給過剰の状態にあり、生産性をあげ生産量を増やせば、その分、低価格化を余儀なくされること、②各国とも輸出は増やしたいが産業転換が思うようには進まなく、国際分業に身をゆだねるリスクまではとれないことから、既存産業を維持した上での輸出強化を目指している。わが国の状況をみれば、円安によっても輸出が増えない状況はこうしたことが影響していると思われる。これまで、あれこれ言いながらも貿易、特に輸出は生産性向上、経済成長の眼に見える指標となってきた。これからはそうはいかないことを示唆している。もちろん貿易黒字であれば良いというものでもなく、赤字は絶対ダメというわけでもない。所得収支を含めた経常収支が黒字であっても、得られた利益を外国に投資するだけで国内投資、消費に結びつかなければ経済成長は停滞してしまう。グローバル企業の決算がいくら良くても同じことが言える。大事なことは、原油価格が上がって貿易赤字になるのは困るが(今原油価格は最低水準にあり、これからそうなる可能性が高い)、多少の貿易赤字ではあってもそれが中長期的に意義ある国内投資、消費に向かっているかどうかが問題だ。
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       図は日経新聞上記記事より抜粋 

2014.4.21 2013年度、貿易統計
財務省から21日、2013年度の貿易統計速報(通関ベース)が発表された。
その概要
貿易収支:▲13兆7488億円、前年度比、約▲5兆6千億円増(68.5%増)、過去最大の赤字
輸出:70兆8564億円、前年度比+10.8%、3年ぶり増加
輸入:84兆6053億円、前年度比+17.3%、過去最大の輸入額
出典:財務省ホームページ「貿易統計」
<特徴>
輸入の増が輸出を大幅に上回る状態が震災以降続いている。正確には徐々に拡大している。遡って10年間の純輸出(輸出-輸入)を調べてみると、縮小は長期的傾向であることがわかる。顕著な傾向は輸送機械、一般機械が純輸出で概ね横ばいであるのに対して鉱物燃料、電機機器が低下し続けていること。製造業の海外移転、電機における競争力低下を如実に示している。経済のグローバル化、競争の激化によって、市場構造が変化しているのだ。鉱物燃料については原発停止後、輸入が増えたのは確かだが、それ以外でも輸入は確実に増えている。円安でも輸出は増えず、景気が良くなればむしろ輸入が増えることに加えてLNGの高騰で今後も輸入は増え続け、貿易赤字は拡大し続ける可能性が高い。(参考図、純輸出の年度推移)
国別、地域別でみると、米国向けで最近増加しているが大局的には横ばい、そのほか向けでは減少方向である。特に中国向けでは輸入が拡大し続ける一方、輸出は横ばいであり、輸入超過状態が拡大している。ASEANをとっても同じ傾向である。よくアジアの成長を取り込むと言われるが、輸出という側面からみれば大きな期待はできない。現地生産が進んでいるからだ。(参考図、同年度推移) 純輸出額はゼロでもかまわないがマイナスはまずい。国民経済からすれば所得の流出にあたるからだ。産業競争力の低下が気になる。
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参考1:クローサーの発展段階説
経済の発展段階に伴なって、経常収支が変化するという説。経済学者、クローサーが1950年代に提唱。本説によれば、「未成熟な債務国」→「成熟した債務国」→「債務返済国」→「未成熟な債権国」→「成熟した債権国」(貿易・サービス収支の赤字を所得収支の黒字で補う)→「債権取崩国」の段階をたどるという。

参考2:アブソープション・アプローチ、貯蓄・投資バランス・アプローチからみた経常収支
短期的にみるとよく適合すると言われるアブソープション・アプローチからみると、国内総需要を国内総生産で賄えなく(鉱物燃料の輸入増に加え消費財を国際市場価格で生産できなくなったため)輸入に頼わざるをえなくなった状態といえる。長期的に適合する説とされる貯蓄・投資バランス・アプローチからみると、貯蓄は企業が持ち直したものの家計は縮小方向、投資は財政赤字の慢性化に加えて企業の投資が活発化する方向にあり、全体として貯蓄-投資はゼロに近づいている。

参考3:製造業の海外移転、海外生産比率
製造業の海外移転:製造業従事者数は1992年頃がピークで1557万人(労働力人口比23.5%だったが2013年では1049万人(同15.9%)とこの間で508万人減った(厚労省労働力調査)。
一方海外現地法人の従業員数は13年末で約558万人、内製造業は436万人だった(経産省調査)。
海外生産比率:製造業全体17.2%(23年度)、20.6%(24年度)、21.6%(25年度見込み)、25.5%(30年度見込み)、加工型製造業では更に高く左記数字に7~9%程度バイアスされる。
引用:内閣府ホームページ「企業行動アンケート調査」

参考4:貿易収支がなぜ重要なのか。
純輸出額が大きかった時代にはその変動に一喜一憂したものだが、赤字が定着してしまうと、GDP対比でみるとたかが2~3%でしかないという楽観論も息を吹き返している。ただかつての景気回復局面では必ず輸出増がトリガーになり、内需拡大への経路をたどっていた(脇田成『日本経済』ちくま新書)ことを思えば、現在の状況は景気回復の起爆剤がなくなってしまった重大局面と言える。

参考5:貿易論からの考察
貿易が行われる理由は貿易を行うことによって利益を獲得できるからである。利益とは商品を交換することからえられる利益、および生産性の高い商品への生産拡大を通して企業、国全体の生産性が高まることの利益が期待されるからであった(比較優位論)。しかし企業が絶対優位な生産拠点を求めてグローバルに移動する今日にあっては、貿易による国全体の生産性向上について、決定的なことは言えなくなる。輸出を増やそうとするならば、まずどのような産業、製品が将来の生産適地になるのか客観的に点検する必要がある。すなわち、国内に生産拠点を有する企業の世界に通じる差別化製品に期待するしかなくなる。そうであるならば国としての産業政策は、グローバル企業とドメスチック企業を明確に区分けし、ドメスチック企業をどう支援するかが中心テーマとなる。
以下、歴史的にみた貿易の基礎理論
■重商主義(16~18世紀中頃):輸出は善、輸入は悪=保護貿易論とする思想。
■アダムスミスの絶対優位説(18世紀中頃):絶対優位、絶対劣位に沿って輸出入品が決定するとする説。スミスは国家主導の重商主義に反対(民営化による生産性の向上を主張)していたので狭い意味では自由貿易論者と言えるが、双方向貿易のメリットを論じたわけではなかった。
■リカードの比較優位の理論(19世紀前半)
絶対優位国、絶対劣位国であってもそれぞれ相対的に労働生産性が高い物(比較生産費が低い物、比較優位財という)と低い物(比較劣位財)がある。お互いに比較優位財の輸出、比較劣位財の輸入に特化すれば両国の生産性は向上し双方向貿易の利益を享受するという理論、自由貿易の理論的根拠となっている理論である。
■ヘクシャー・オリーンの理論(20世紀前半)
リカードの理論は生産要素を労働に限定していたが、ヘクシャー・オリーンの理論では労働と資本とする。その要諦は、各国はその国に豊富に存在する生産要素(労働、資本)を集約的に使う産業に比較優位を持つ、すなわち生産要素の存在量の大きな産業に比較優位を持つとする。本論では生産する財は労働集約財、資本集約財に分けられる。
ただしリカードの理論もこれを修正したヘクシャー・オリーンの理論も国内産業間では生産要素は容易に移動できる一方、国家間では移動が起きないとする、また工業化の発展段階の違いからくる比較生産費の違いは考慮しない(即ち比較生産費を固定的に考えていること)、国家間の投資、利益の再分配はないとするなど今で考えると非現実的仮定を前提にしている。
■産業内貿易の理論(1970年代~)
比較優位論は産業間貿易を説明するものであったが、現実にある産業内貿易(同じ産業分類に属する財の輸出入)については論じていなかった。産業内貿易論は比較生産費の構造、消費者の嗜好がほぼ同じ国の間では類似の財が取引されることに着目した理論である。製品差別化(非価格競争)を大前提とするが、規模の経済(固定費を吸収するだけの生産量が必要となる)がはたらく結果、企業が乱立すること、無限数の商品が作られることが抑制され、1企業は1製品を独占的に生産する方向に動くこととなり、それが国際的に起こるため貿易を誘因するのだと説明する。なお比較優位論が伝統的貿易論と呼ばれるのに対して、それ以降の産業内貿易をも考慮した貿易諸理論を新貿易理論と呼んでいる。
■プロダクトライフサイクル・モデル
製品にはライフサイクル(開発段階、成熟段階、標準化段階)があり、概ね開発は先進国、成熟段階は資本豊富国、標準化段階は発展途上国で行われる。時間の経過とともに生産適地が移動していくことに貿易の理由を求めた説である。
■リンダー・モデル
消費者の需要パターンは消費者の所得水準によって決まり、ある国の生産はその国の需要パターンを反映するとする。市場立地(大きな需要のあるところで生産する)が基本となるが、ある製品の需要が両国で重複する場合には輸出入が発生すると説明する。以上
by bonjinan | 2014-04-21 20:27 | 政治・経済