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徒然草より -今に生きる-

何十年かぶりに吉田兼好(ca1283~ca1352)の『徒然草』を読んだ。徒然草は平家物語、方丈記とならび人の世の無常を表した古典文学であるが一つだけ決定的な違いがある。暗さがないことだ。滅び行くものを美しく詠った悲歌ではなく、限りある人生を謳歌しようとする応援歌と思える。見方によっては年寄のおせっかいともとれなくはないが年をとった者には友を得たような錯覚すら覚えさせる。気を休め英気を養うには最高の随筆ではないだろうか。

「つれづれわぶる人は、いかなる心ならん。まぎるるかたなく、ただ一人あるのみこそよけ。・・・分別みだりに起こりて得失やむ時なし。酔ひの中に夢をなす。走りていそがはしく、ほれて忘れたること、人皆かくのごとし。いまだまことの道をしらずとも、縁を離れて身をしづかにし、ことにあづからずして心を安くせんこそ、しばらく楽しぶとも言ひつべけれ。」(第75段)
(注)つれづれ;することもなく所在ないこと。わぶる;なげく。まぎる:他の事に心が奪われる。分別;功利的な才覚。得失;損得を計算する心。ほれる;ぼおっとする。あづかる;かかわりをもつ。

「・・・されば、人、死を憎まば、生を愛すべし。存命のよろこび、日々に楽しまざらんや。愚かなる人、この楽しびを忘れて、労かはしく外の楽しびを求め、この財を忘れて、あやふく他の財をむさぼるには、志満つことなし。生ける間、生を楽しまずして、死に臨みて死を恐れば、この理あるべからず。人皆な生を楽しまざるは、死を恐れざる故なり。」(第93段)
(注)労(いたつ)かはし;ご苦労なことである。。財(たから);財産。あやふし;危険をおかして。

「世に従はんとする人は、まづ機嫌を知るべし。ついで悪しき事は、人の耳にも逆ひ、心にも違いて、その事成らず。さようの折節を心得べきなり。ただし、病を受け、子生み、死ぬることのみ、機嫌をはからず、ついで悪しとて止むことなし。・・・人はみな死あることを知りて、待つことしかも急ならざるに、覚えずして来る。沖の干潟、遥かなれども、磯より潮の満つるがごとし。」(第155段)
(注)機嫌;時期、タイミング。ついで;タイミング。

「所願を成じてのち、暇ありて道に向かはとせば、所願尽くべからず。如幻の生のうちに何事をか成さん。すべて、所願みな妄想なり。所願心に来たらば、妄信迷乱すと知りて、事をもなすべからず。直ちに万事を放下して道に向かふとき、さはりなく、所作なくて、心身永く閑かなり。」(第241段)
(注)道;一般に仏の道と訳されるがもっと幅広く利害得失の世界から離れた自由な世界と捉えた方が兼好の求める精神に合致するような気がする。

追加
「自我(Ego)は基本的に「あたま」の働き。「あたま」は「こころ」=「からだ」(心身一如)=「自然」(心土不二)と分離していることが多く、そのことが悩みや病の原因になっていることが多い。そこに蓋をして分離するのは頭(偽りのこころを伴う)の働き。
頭の働きが強いと→(言語)Should,Must,~すべき、(特徴)理性、論理、・・・、(法則)因果論、二元論、(仕事)過去の後悔、未来のシュミレーション、(感情)偽装された感情、浅い感情、欲望、(自ら)みずから。 
心身一如、心土不二、こころとからだが調和していると→(言語)Want to、~したい、(特徴)高度な知性、瞬間的で頭では理解できない、(法則)共時的、(仕事)今、ここ、(感情)深い感情、愛、欲求、(自ら)おのずから。」 (以上、東大病院、稲葉先生)。
過去を振り返り、未来に備える。まことに立派なことのように聞こえるが今を空しくしていないか。自分自身の「こころ」と「からだ」のことををおろそかにしていないか。年を重ねた人の言葉に重みがあるのは「あたま」が「こころ」「からだ」と一体化し発せられているからだろう。
追加
禅語に「而今(にこん)」という言葉がある。過去はもとより今の瞬間も二度と戻ってこない。今この瞬間を大切に生きなさいという意味。好き勝手にしなさいということではなく、今なすべきことに集中しなさいという意味のようだ。今なすべきことはそれぞれのライフステージ、境遇によって違ってくるが、基本は「生あればこそ、今を明るく元気に生きなさい」ということだろうと思う。元気は外からの刺激に共振して起こるということもあるだろうが本質的には外部からやってくるものではなく内面から発するものであり、自身にとっても家族にとっても社会全体にとっても良い影響をもたらす価値あることなのだと解釈したい。
参考: 2011.1.31ブログ記事「セネカの言葉」
by bonjinan | 2013-12-03 12:25 | 読書