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言論統制下の知識人

年明けに起きた「南方週末」事件による混乱は表面的には終息したようだ。戦時中にはわが国でも官憲による情報統制、検閲が行われ、結果としてメディアも誤った情報を流し戦争を支持していたことを思えば他人事ではない。中国における関係者の苦労は察するに余りある。今現在も表舞台とは無縁の世界にいる知識人たちがいるはずであり、どう過ごしているのだろうか。最近、今と同じような状況が起こっていた日中戦争(1937-45)、文化大革命(1966-67)の時代を生きてきた中国人女性作家・楊絳(やん・じゃん)の書に触れた。まず楊絳(1912- )さんの経歴から辿ってみる。蘇州・東呉大学で法学、北京・清花大学大学院で西洋文学、夫とともに英仏にも留学し、清華大学で教鞭をとったエリート中のエリート。西洋事情に明るく彼女さえ望めば亡命もできたであろうし、文革に積極参加すればその時の政治の表舞台に立てたかも知れず、また経世済民を志し官僚の道(多くは出世欲が渦巻く世界に嵌るのだが)を選ぼうとすればそのチャンスもあったであろうが、それらの道は選ばず中国に留まり研究者として淡々?と生き抜いてきた教養人だ。著作は翻訳書を除いてはエッセイで、代表作『幹校六記-<文化大革命>下の知識人』(中島みどり訳、みすず書房、1985年出版、原書は1981年香港で出版された)を読んでみた。憤り、あるいは反対に恥の記と思っていたのだが、さにあらず、幹校時代の生活を活き活きとしかもユーモアさえ交えて綴っているのだ。もちろん彼女の経歴を思えば行間に怒りも感じるのだが、それは読者次第といったところで、表面上はとても爽やかなエッセイ風記録なのだ。もちろん怒りを顕にした作品ならば香港で発刊されたとはいえその前に検閲を受け許可されなかっただろう。ただだからと言って一般人がやすやすと感情を抑えてまで爽やかに書けるものでもない。郷土愛(愛国心の原型)、深い洞察力があったからこそ事実を淡々と書けたのだろう。いろいろ制約がある中で精一杯生き抜いている姿、大陸的でもあるその姿を知ることができる。現在のわが国では言論の自由が保証されている。何でも表現できる。しかし1か月、1年も経てば陳腐化してしまうような洞察力に書ける言論、メディア情報が溢れているさまをみるととても健全な姿とは言えない。むしろ浅知恵を固定化しているだけかも知れない。現在の中国をみて他山の石とし名実ともにアジアの文化国になって欲しいと思う。
by bonjinan | 2013-01-18 08:53 | 文化・歴史