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世の中、無常なるもの、はかなきもの

昨日、郵政社長人事をめぐり、鳩山総務相が辞任した。鳩山氏いわく「世の中、正しいことが通らない時があるんだなと、今はそう思います」と発言した。鳩山氏にせよ西川社長にせよ、良くある「世間を騒がせたことにお詫び申し上げます」パターンの辞任にはならなかったものの、「世の中」とか「世間(せけん)」という言葉はこうした場合、良く使われる。この会見でも「世の中」ということばが使われている。「世の中」は抽象的な言葉で枕詞のようなものだが日本人の精神風土にどっぷり根付いている。歴史をたどれば万葉の時代から無常なるもの、はかなきもの代名詞でもあったようだ(はかとは、はかどらないのはかで、思うように進まないの意味)。
「世の中を何に譬へむ朝びらき漕ぎ去(い)にし船の跡のなきがごと」(沙弥満誓)*
「世の中は空しきものと知る時しいよよますます悲しかりけり」(大伴旅人)
阿部**によると、鎌倉時代になるとさらに無常なるものがリアリティーを増して、より身近な人間関係に及んでくるという。現在、「世間を騒がせた・・・」と言えば心情として、一般大衆をイメージしているわけではなく、自分と直接関係ある人たちに迷惑をかけたの意味合いで使われている。ほとんど同じ使い方が鎌倉時代に定着してきているという。
「世ニ随(シタガ)ヘバ身苦シ。随ハネバ狂(キョウ)セルニ似タリ」(鴨長明、方丈記)
「世に随へば、心、外の塵に奪はれて惑ひやすく、人に交はれば、言葉、よその聞きに随ひて、さながら心にあらず。・・・・・」(吉田兼好、徒然草第75段)
生真面目な個人を悩ます「世の中」はこうして時代が下るとともにより冷たい非情なものになってくるのだが、時代が変わっても逃げるに逃げられない厄介な相手であるとの認識は変っていない。
話を戻そう。麻生首相は今回の鳩山氏の更迭理由として「国民の財産の郵政事業に関し、政府と郵政会社との間に混乱を生じた印象を与えたことははなはだ遺憾。早急に解決されてしかるべきだと思って、判断した」と述べた。混乱を生じた印象を与えたと述べたが、問題があったから混乱があったのではないか問題がまったくなかったのなら何故更迭劇が起きたのか疑問が残る。日本人は問題の本質を議論するのを嫌い元々世の中のことは無常ではかないものだから、いろいろ議論すること自体が野暮なのだ、との結論ずけるのがが好きだ。世の中が、無常なるもの、はかないものの代名詞として使われ、社会のリーダー達がことあるごとに権力者の村を意識して使われる限り、オープンな社会、安心とか信頼社会の実現は困難と思われる。
*和歌は鎌倉初期になると本歌取りによる重層的表現が流行る。
この歌も勅撰和歌集の拾遺和歌集になると変わる。
「世中を何に譬へむ朝ぼらけ漕ぎ行く舟の跡の白波」となる。
後世、これが無常を歌う標準歌となっている。
引用:**阿部謹也「世間とは何か」講談社現代新書(1995)
**竹内整一「はかなさと日本人」平凡新書(2007)
by bonjinan | 2009-06-13 08:05 | 文化・歴史