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合成の誤謬

私たち一人ひとりが正しいと思う行動をしても、その合成された世界では思わぬ結果をもたらすことがある。これを経済学では英語で「fallacy of composition」、日本語では「合成の誤謬(ごびゅう)」という。最近の世の中の動きはそんな感じがすることが多い。なぜこうしたことが起こるのか、小室直樹の著書(脚注)から書きだしてみた。
①ケインズのジレンマ
ポール・A・サミュエルソン(1915-2009)は近代経済学の教科書『経済学』の冒頭で「個人にとって無駄をいましめ貯蓄に励むことは美徳である。しかし、一国の人間がすべて貯蓄にだけ精を出せば、その国の経済は当然破綻をきたす」とケインズの論を学生にも分かるように説いた。
②マンデヴィルのジレンマ
イギリスの思想家、バーナード・デ・マンデヴィル(1676-1733)は著作『蜂蜜物語』のなかで「個人の悪徳は全体の美徳である」と書いた。常識的には悪人が集まれば社会も悪くなるはずだがそうとも限らないと考えた。市場機構をとおすや否や『神の見えざる御手』(注)が働き、最大多数の最大幸福をもたらすというのだ。
③アローズ・ジレンマ(アローの背理)
アメリカの経済学者・ケネス・J・アロー(1921-2017)は「合成の誤謬」を数学的論理に基づいて「個人個人がそれぞれ合理的選択をしても、社会は合理的選択をするとは限らない」を検証してみせた。
①②が概念的であるのに対して③はより論理的に証明している。なおアロー、サミュエルソンともノーベル経済学賞受賞者。
(注1)神の見えざる手:アダムスミスが『国富論』で提唱した市場原理
(注2)小室直樹『数学を使わない数学の講義』ワック出版(2005)

by bonjinan | 2011-06-07 20:53 | 読書