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お寺の梵鐘と教会の鐘

もうしばらくで除夜の鐘が鳴り響きます。ところでお寺の梵鐘は"ゴオ~ン"、キリスト教会の鐘(ベル)は"カラ~ン、カラ~ン"なぜ音色が違うのだろうか。物理的には形状、材質などの違いによる基本周波数の差で、どちらも青銅(銅錫合金)ではあるが、梵鐘は大きく重く錫の比率が約10%なのに対して、ベルは小さく軽く錫の比率が約20%で硬さの違いから生じている。しかしなぜ東洋では低音で長くのびる音を選び、西欧では高音を選んだのだろうか。鐘の音から連想すれば、仏教では「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」の表現が良く合うと思うし、キリスト教では「天から降り注ぐ神の愛」のイメージが良く合う。しかしながら「諸行無常」や「清らかな浄土の世界」を表現するとすれば風鈴のようなはかなく涼やかな音でも良かったはずであり、「神の愛」も広く深いと思えば"ゴオ~ン"でも良かったはずだから東西における鐘の音の選択理由であったとは言えない。ではなぜ。結論から言えばそれほど深い意味があって選択されたのではないと思われる。東洋では中国・殷の時代の巨大な青銅器は権力の象徴としてまた祭祀の道具として造られていた。弥生時代に造られたとする銅鐸は形も似ており成分も錫が15%以下で梵鐘の組成に近い。仏教寺院においてもその延長として大型の鐘が当たり前のこととして受け入れられたと思われる。一方、キリスト教では神の住む天からの音をイメージするために高い塔に備え付けられたから、梵鐘の様な重量物は初めから想定されなかっただけのことと考えられる。現実に約60トンの重さがあるとされる京都・知恩院の大梵鐘を約100mの高さのヴェネツィア・サンマルコ広場の鐘楼に引き上げることなどとてもできないし建物がもたない。宗教そのものがその時の社会的背景を踏まえて生まれたように人工物である鐘はより素直にその時の技術を反映したものと考えるのが妥当だろう。何はともあれ除夜の鐘の音を聴き良い年を迎えたい。
(補足)梵鐘の特徴である「うなり」のこと。梵鐘の上部は薄く、下に行くほど厚く、下側の振動が加わるからで、うなりがあることによって心をも揺り動かす響きとなる。

尾道、千光寺の鐘楼
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ヴェネツィア・サンマルコ広場の鐘楼
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by bonjinan | 2010-12-30 12:57 | 生活